気づき通信 平成30年02月企業

 

所得税の確定申告の時期に思う事

 

今、所得税の確定申告の時期です。会計事務所はとても忙しい時です。今年の税法改正案も出て色々な事を思います。

 

1 昨年の所得税の確定申告書はどれくらい出たと思いますか。

実に2170万件です。このうち、医療費控除等で税金を返してくれという申告書が1257万件、約6割というところでしょうか。逆に申告納税に関する話では637万件、事業所得での納税が173万件、不動産所得が多い納税が110万件、等々となっています。日本の総人口が1億2700万人、仕事についている人が6440万人といいますから、相当な人数です。

国税庁の人員は日本の厳しい財政を反映して増えていませんから、効率的に賄っていくために今次のようなことを行っています。

①申告書を紙で郵送せず、インターネット(電子メール)で連絡し、電子申告してもらうように誘導しています

②電子申告をする人にとって、税金が少し安くなる有利な仕組みを平成32年から導入します

③色々なデータを電子データとして集め、このデータと申告書を照合するような仕組みを着々と開発しています(生命保険金の申告漏れ、家賃の申告漏れ等を発見)

 

2 法人税の世界でも、大企業がすべての電子申告するように税制を変えます。

これは極端で、電子申告しなければ法人税の申告をしていない(無申告)として扱うという非常に厳しい罰則を設けます。しかも、科目明細書他、一式全てを電子申告しろというルールであり、これは平成32年から始まります。

マイナンバー等が進んでいる北欧のある国では、申告書は国が作り、国民がそれと違う場合のみ出し直すという制度を取っている国もあるとのこと。国としては是非ここまでやりたいのではないでしょうか。

 

3 国民の財産の把握

電子申告とあわせて進んでいるのが国のIT利用による国民の財産把握です。現在、相続税の時のみ財産の申告が行われています。

しかし、財産債務調書申告制度があります。所得が2,000万円超、且つ、3億円以上の財産(株式投資等であれば1億円以上)である人が財産と債務の状況を詳細に自主的に報告しなければなりません。また、海外に5,000万円以上の財産を持っている人は海外財産調書という形で財産目録を毎年提出しなければなりません。申告書用紙はOCRもしくは電子申告で行う事になっておりマイナンバーも当然要求されています。

 

 

この二つの制度は緩やかな運用が現在行われている制度ですが、税務調査の時に提出していない事、若しくは極めて大雑把に作成している事が分かると強く指導され詳細な財産債務調書を提出するように要求されます。さすがに税務調査の場面で要求されると細かいものを提出せざるを得ません。一度提出されればそれはコンピュータに保存され、将来にわたり利用されていく事になります。

 

また、金融資産の把握も進んでいます。現在、証券会社に口座を開くとき、あるいは、NISA等の取引等を始めようとするときはマイナンバーの提示が必要条件であり、証券会社は既存の取引先についても2018年12月末までにマイナンバーを集め終わらなければなりません。特定口座という形で証券会社に預けている財産の内訳が明らかになることを嫌がっていても、結局は国の力が強い証券業界は協力することになるでしょう。尚、マイナンバーを今年中に提出しなかった場合、来年以降その証券会社で取引できるかどうかは分かりません。

銀行については、新規に口座を開く場合等は現在マイナンバーの提示が求められていますが、法律上は強制ではありません。銀行は2021年度までに全ての既存口座についてマイナンバーを収集することになっています。これにより、相続税申告の際、より容易に正確に財産の把握ができる形が進むのでしょう。

 

それよりももっと私が想像している事があります。

今、老齢者の格差問題が盛んに騒がれています。今年の税制改正でも所得の高い人に対して厳しい増税が行われています。現在でも、高齢になってからの介護保険や医療保険、厚生年金については所得の有無、高い低いがその高齢者の負担と結びついています。即ち、所得の低い人については介護保険料、あるいは健康保険料も安い。且つ、介護保険や医療保険を使う時の自己負担率も低い。所得の高い人は保険料も自己負担比率も高い。所得に関わりなく貰える社会保険の給付は年金だけです。

では、金融資産を既にたくさん持っている人になぜ年金を払わなければならないのだという論調になっていけばどうなるでしょうか。

所得の把握は、ある程度できる仕組が整っています。しかし、金融資産などの財産の把握は難しい。しかし、今後はマイナンバー活用で国民の財産の把握が容易になっていく。

財産がない人は多く、財産がある人は少ないとすれば、政治の世界では、必然的に健康保険料や介護保険料など所得が少なくても財産をたくさん持っている人からたくさん保険料を取れ、介護や医療のサービスを受ける時も所得が少なくても財産をたくさん持っている人からはたくさん取れ、年金も財産をたくさん持っている人には払うなというような、所得、財産という意味で貧しい人がよりラクをするような仕組みに広がっていくのではないでしょうか。

国民全体の助け合いという意味では、ある面でいえば正しいのですが、但し、これは自分達の子供や孫に所得を上げると損をするから所得の少ない仕事に就きなさい、財産を貯めるのもやめなさい、と言っているのと等しいのではないかと思います。

しかし、おそらく、私が想像している方向へ進んでいくのではないでしょうか。

 

 

 

 

 

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