Archive for 2016年8月16日

住宅ローンと団体信用生命保険

 

~債務控除とみなし相続財産(死亡保険金)の適用あり?~

 

35歳でマイホームを購入して住宅ローンを35年返済で組んだ場合、完済するのは70歳の時になりますが、70歳になる前に不幸にも若くしてこの世を去ってしまったら、遺族には家も残りますが住宅ローンも残ってしまいます。

 

通常、住宅ローンを組む場合、同時に団体信用保険(以下「団信」という)に加入することを勧められます。そして、その契約者・保険料負担者・受取人はその住宅ローンを融資した金融機関で、被保険者が債務者(被相続人)になっています。

 

この団信のおかげで、住宅ローンの完済前に死亡した場合でも金融機関に保険金が支払われることによって、残りの住宅ローンをすべて支払ったことになり、遺族が住宅ローンの負担をしなくてもよい仕組みになっています。

 

ところで、相続開始時にはまだ住宅ローンも残っていて、死亡保険金も支払われるとなると、債務控除の対象になるのか、みなし相続財産に該当するのかといったことが気になるところですが、相続税の計算上それぞれの取り扱いはどのようになるのでしょうか?

 

まず、団信について、相続税のみなし相続財産になるのはその保険料の全部又は一部を被相続人が負担していた死亡保険金ですが、上記の団信ではその保険料を負担しているのは被相続人ではなく、受取人である金融機関ですので、相続税の課税財産にはなりません。

 

となると、住宅ローンだけ債務控除できるのではと思われそうですが、残念ながら債務控除もできません。債務控除の対象となるものは被相続人が死亡したときにあった債務で、確実と認められるものと定められています。

団信の保険金で返済される住宅ローンは確実に負担する債務とはなりませんので、債務控除はできないということになります。

 

したがって、団信付き住宅ローンの返済中にその債務者の相続が発生した場合には、住宅ローンも団信の死亡保険金も除外して考えればよく、自宅だけを課税財産として評価することになります。

 

受取人が先に死亡した生命保険

~子供のいない夫婦が掛けていた保険金の行方~

 

ある老夫婦が二人で仲睦まじく暮らしていました。この夫婦には子供はなく、夫Aには弟Bが、妻Xには姉Yがいました。Aの弟B夫婦は老夫婦の近くに住んでおり、老夫婦の晩年の世話をし、また老夫婦もBの子供をわが子のようにとても可愛がっており、将来は財産をこの甥っ子に渡したいと思っていました。一方、Xの姉Yは、遠方に住んでおり、この老夫婦とはほとんど接触はありませんでした。また、この夫婦は将来に備えて、夫Aが被保険者、妻Xが受取人の生命保険をかけていました。

時がたち、妻Xが病気で先に亡くなってしまいました。その葬儀から1ヶ月も経たない時に、今度は夫Aが事故で亡くなってしまったのです。夫Aの葬儀が終わった後、Aの弟Bが身辺整理をしているときに、夫Aが被保険者、妻Xが受取人の保険証券を発見しました。

Aの弟Bは、妻Xが先に亡くなっているので受取人の権利は消滅しその保険金はBのものだと主張し、Xの姉Yは、受取人は妻Xなのだから自分たちにも受け取る権利はあると主張しました。保険金は相続財産ではないのですが、ここでも「争続」が始まりました。

この場合、当該生命保険契約の約款にその定めがあればそれに従うのですが、無い場合には保険法の定めによります。そこでは、保険受取人が先に亡くなった場合には、その受取人の相続人が受け取るとなっており、この場合は夫Aと姉Yとなりますが、夫Aは亡くなったので、実際は夫Aの弟Bと姉Yとなります。ここで注意しなければならないのが、その割合で、法定相続割合で行くと夫A(弟B)が3/4、姉Yが1/4となるのですが、保険金の請求権は法定相続割合ではなく、均等割りだという最高裁判例があるというところです。よって、弟Bと姉Yはそれぞれ1/2ずつの保険金を受け取ることになります。

もし妻Xが亡くなった時に受取人を弟Bや甥っ子に変えていたならば、Aの保険金は姉Yに渡ることはなかったので、受取人の名義変更を失念すると思ってもないところに渡ることになるので注意が必要です。